個人事業主が建設業許可を取る方法|要件・必要書類・申請のポイント
- Ryuji Hemmi
- 2022年8月4日
- 読了時間: 11分
更新日:4月1日

建設業界において、人件費や材料費が年々上がっていることもあり、個人事業主であっても500万円以上の工事に遭遇する機会が増えつつあります。
いつまでも500万円以上の工事を一切受けないというわけにもいかない…
500万円未満の工事でも建設業許可を求められる場面が増えてきた…
このような中、建設業許可の取得を考える個人事業主も多いのではないでしょうか。
本記事では、個人事業主が建設業許可を取るための要件や必要書類、注意点などをわかりやすく解説しています。
ぜひご参考にしていただければと思います。

▼目次
(3)財産的基礎があること
(5)営業所を有していること
(1)申請書類
(2)確認書類
5.最後に
個人事業主が建設業許可を取るのは難しいのか
個人事業主だからといって、法人と比べて特別な要件や書類が求められるわけでもありません。
個人・法人に関わらず、建設業許可は経営経験や実務経験の有無がポイントになります。
個人事業主の場合、基本的には自らの経営経験や実務経験を証明することになります。
経営経験や実務経験を証明するには、確定申告書や請負契約書、注文書・請書、請求書・入金通帳を揃えなければなりません。
長年きっちりと帳票管理ができている方であれば、それほど苦労しないかもしれませんが、ほとんどが請負契約書等の整理もできていないのが実情です。
個人事業主で建設業許可を取る難しさは、請負契約書等の確認書類を揃えるところにあるといっても過言ではありません。
個人事業主が建設業許可を取るための要件
建設業許可を取得するためには大きく分けて5つの要件を満たす必要があります。
個人事業主の場合、ヒトに関わる要件は基本的に自らがクリアできるかどうかにかかっています。
◎経営業務の管理責任者がいること
個人事業主本人または支配人(※登記必要)が経営業務の管理責任者として常勤しなければなりません。
経営業務の管理責任者になるには建設業の経営経験が5年以上必要になります。
経営経験とは個人事業主や法人の取締役として経営業務を総合的に管理した経験をいいます。
個人事業主の経営業務補佐(番頭)や法人の取締役の経営業務補佐(工事部長等)の経験が6年以上ある場合も経営業務の管理責任者になることができます。
💡支配人とは 「個人その者に代わって、営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をなす権限を有する使用人」 代替わりして、個人事業主となった子に経営経験年数が足りず、経営経験が5年以上ある父親を支配人として登記するというようなケースが考えられます。 |
また、個人事業主として、法律上加入義務のある保険に正しく加入していることも求められます。
●健康保険・厚生年金保険…専従者(家族従業員)を除く従業員が5人以上の場合は加入義務あり。
●雇用保険…1人でも従業員を雇用していれば加入義務あり。
✓あわせてチェック 経営業務の管理責任者は経営経験が必要!必要書類・申請のポイントを徹底解説! |
◎営業所技術者(専任技術者)がいること
個人事業主本人または支配人、専従者(家族従業員)、従業員が、営業所技術者(専任技術者)として常勤しなければなりません。
営業所技術者(専任技術者)は経営業務の管理責任者と兼任することができます。
個人事業主の場合は本人が営業所技術者(専任技術者)と経営業務の管理責任者を兼任するパターンが多くなります。
営業所技術者(専任技術者)になるには、許可を取得しようとする業種に応じた国家資格等を保有するか、10年以上の実務経験を保有している必要があります。
※所定の学科を卒業している場合は、3年または5年の実務経験に短縮されることがあります。
✓あわせてチェック 建設業許可に必要な資格|専任技術者になるための条件を徹底解説! |
◎財産的基礎があること
【一般建設業許可の場合】
直前の決算で純資産合計が500万円以上であることが求められます。
純資産が500万円ない場合は、500万円以上の預金残高が必要となります。
預金残高は金融機関が発行する残高証明書(※証明日付が申請日前4週間以内)で証明しなければなりません。
✓あわせてチェック 建設業許可を取りたいけれど500万円がない【対処方法を完全解説!】 |
【特定建設業許可の場合】
直前の決算において以下のすべてをクリアしていることが求められます。
■ 欠損の額が資本金の額の20%を超えていないこと。
■ 流動比率が75%以上であること。
■ 資本金の額が2,000万円以上であること。
■ 自己資本の額が4,000万円以上であること。
個人事業で特定建設業許可を取るのは、非常にハードルが高く、現場配置技術者の観点からもあまり現実的ではないかもしれません。
◎欠格要件に該当していないこと、誠実性があること
個人事業主本人または支配人が以下の欠格要件に該当している場合は許可が下りません。
■ 破産者で復権を得ない者
■ 建設業許可の取消を受けて5年を経過しない者
■ 監督処分による許可取消を免れるために廃業届を提出してから5年を経過しない者
■ 営業停止処分を受け、その停止期間が経過しない者
■ 禁固以上の刑に処せられ、その刑の執行が終わり、または執行猶予期間が満了してから5年を経過しない者
■ 一定の法令の規定に違反して罰金以上の刑に処せられ、その刑の執行が終わり、または執行猶予期間が満了してから5年を経過しない者
■ 暴力団員等に事業活動を支配されている者
■ 暴力団員、または暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
■ 精神の機能の障害により建設業を適正に営む事ができない者
申請書類や添付書類の中の重要な事項について、虚偽の記載もしくは欠落があるときは当然ながら許可されません。
また、請負契約に関して不正または不誠実な行為をするおそれがある場合も許可されません。
✓あわせてチェック 建設業許可の欠格要件、誠実性について【ひっかかると不許可・許可取り消しに】 |
◎営業所を有していること
建設業の営業を行う事務所(=建設工事に係る請負契約を締結するなど、見積り、入札、契約締結に係る実体的な行為を行う事務所)を主たる営業所として設ける必要があります。
従たる営業所(支店)を設ける場合は、その営業所に支店長や専任技術者を配置しなければなりません。
従たる営業所(支店)が主たる営業所と異なる都道府県にある場合は、国土交通大臣の許可になるのでご注意ください。
営業所の要件は以下のとおりです。
■ 営業所として常時使用する権限を有していること。
■ 建物の外観または入口で、商号または名称が確認できること。
■ 固定電話、事務機器、机等什器備品を備えていること。
■ 許可取得後は、建設業の許可票を掲示していること。
■ 経営業務の管理責任者(従たる営業所は支店長等)、専任技術者が常勤して専らその職務に従事していること。
✓あわせてチェック 建設業許可の営業所について徹底解説!|要件を満たす事務所とは?【大阪府知事許可】 |
個人事業主が建設業許可を申請するときに必要な書類
建設業許可の申請には、所定の申請書類と確認書類(経験等を証明する書類)が必要になります。
個人事業主の場合、所定の申請書類は法人に比べてやや少なくはなりますが、確認書類が少なくなるわけではないので、書類作成・収集の難易度自体は変わりません。
◎申請書類

◎確認書類
☑経営業務の管理責任者について
①経営経験
【個人事業主の経験を証明する場合】
・確定申告書の第一表 ・工事実績資料(請負契約書、注文書・請書または請求書) |
【法人の取締役の経験を証明する場合】
・確定申告書 ・商業登記簿謄本 ・工事実績資料(請負契約書、注文書・請書または請求書) |
確定申告書(商業登記簿謄本)と工事実績資料が重なっている期間を経営経験として、5年分以上準備します。
工事実績資料は、工事と工事の間が12ヶ月以上空かないように揃えなければ、つながった経験として認められません。
申請実務上、請求書を工事実績資料として使用することが多いですが、入金履歴が確認できるよう入金通帳等も準備しておきましょう。
年数の計算について図解で示すと下記の通りです。

②常勤性
・住民税課税証明書 |
住民税課税証明書は毎年6月以降に前年1月~12月の所得に基づいて算定されたものが発行できます。必ず最新のものを準備するようにしましょう。
※3月の確定申告期限から5月頃までの間に申請する場合は、住民税課税証明書に代えて確定申告書が必要になります。
☑営業所技術者(専任技術者)について
許可を取得しようとする業種に応じた国家資格等を保有している場合は、確認書類としてその資格の資格証や免状および常勤性に関する書類を準備するだけです。
①実務経験
【個人事業主の経験を証明する場合】
・工事実績資料(請負契約書、注文書・請書または請求書) |
【過去に在籍していた会社での経験を証明する場合】
・工事実績資料(請負契約書、注文書・請書または請求書) ・年金記録回答票、雇用保険被保険者離職票または在籍していた会社の印鑑証明書 ※個人事業に在籍していた場合は、その個人事業主の確定申告書 |
工事実績資料から工事内容が客観的に読み取ることができ、工事内容から業種が特定できなければ、経験として認められません。
特に建築一式工事、土木一式工事、機械器具設置工事等は、証明するのが難しくなります。
工事実績資料は経営業務の管理責任者の場合と同様に工事と工事の間が12ヶ月以上空かないように揃えなければ、つながった経験として認められません。
②常勤性
【個人事業主本人の場合】
・住民税課税証明書 |
【専従者(家族従業員)の場合】
・住民税課税証明書 ・確定申告書(第一表と専従者欄) |
【従業員の場合】
・住民税特別徴収税額通知書(会社用・本人用)または標準報酬決定通知書 ※いずれも直近分 |
☑社会保険等の加入について
【健康保険・厚生年金に加入義務がある場合】
以下のいずれか ・納入告知書 納付書・領収証書(窓口納付) ・保険納入告知額・領収済通知書(口座振替) ・社会保険料納入確認書(未納がないことの確認書) ・健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書 |
【雇用保険に加入義務がある場合】
以下のいずれか ・労働保険概算・確定保険料申告書及び領収済通知書 ・労働保険料等納入通知書及び領収済通知書 ・労働保険料納入証明書 ・雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(事業主通知用) ・雇用保険適用事業所設置届 事業主控 |
個人事業主が建設業許可を取得した後に気を付けるべきこと
建設業許可を取得すると許可業者にはさまざまな義務が課せられます。
中でも主任技術者・監理技術者の配置義務は、個人事業主にとって特に注意が必要なところです。
◎主任技術者・監理技術者の配置義務
建設業許可業者は個人・法人関係なく、工事現場に主任技術者・監理技術者(専任技術者と同等の資格要件)を配置する義務があります。
専任技術者は営業所に常勤・専任していることが求められるので、原則、主任技術者・監理技術者を兼任することができません。
例外的に専任が不要な現場(※請負金額4,500万円未満(建築一式工事の場合は9,000万円未満))かつ営業所と近い現場であれば兼任することは可能です。
また、R6建設業法改正により専任が必要な現場であっても一定の要件をクリアすることで兼任することができるようになりました。
✓あわせてチェック 【建設業法】監理技術者等の専任義務の合理化等(R6改正法の一部施行) |
個人事業主は本人が専任技術者になっていることが多いので、その場合、常に上記のような制約を受けながら本人が現場配置技術者を兼任するということになります。
うっかり遠方の工事を請け負うと建設業法に違反することになってしまいます。
建設業許可を取得した個人事業主は、事業拡大にあわせて現場配置できる技術者の雇用も視野に入れておく方が良いでしょう。
最後に
個人事業主が建設業許可を取る方法について解説いたしました。
個人事業主だからといって許可取得が難しくなるということはありません。
許可要件をクリアすることもさることながら、それを証明する書類を揃えることができるかどうかがポイントになります。
いずれ法人成り(法人化)してから許可取得という考えもありますが、許可は承継することもできるので個人事業主の間に1日でも早く許可を取得し、信用力UPや受注拡大を狙うという選択もありでしょう。
![]() | この記事の執筆者 逸見 龍二(へんみ りゅうじ)|行政書士 アールエム行政書士事務所の代表・行政書士。事業会社で店舗開発に従事。ディベロッパーや建設業者との契約交渉・工事発注に数多く携わる。その後、行政書士事務所を開設。 建設業専門の事務所として 近畿圏内の知事許可、大臣許可、経営事項審査、建設キャリアアップシステムをサポート。 事務所HPへ |
当事務所では大阪府知事の建設業許可を中心に申請代理を承っております。
大阪市鶴見区・城東区・都島区・旭区を中心に大阪府全域、奈良県、兵庫県、和歌山県は標準対応エリアです。
迅速にご対応いたします。その他地域の方もお気軽にご相談ください。
ご相談はお問合せフォームからお願いいたします。
Comments