建設業者が知っておくべき損益計算書作成の重要ポイント【許可・決算対応】
- Ryuji Hemmi
- 9月10日
- 読了時間: 7分
更新日:10月1日

建設業の許可申請や決算変更届では、必ず財務諸表の提出が求められます。
その中でも「損益計算書」は、完成工事高や完成工事原価が確認できるだけでなく、「貸借対照表」や「直前3年の各事業年度における工事施工金額」など他の書類にもつながる重要な資料です。
ただし、税務申告用の決算書と同じものではありません。
人件費の振り分けや工事原価の処理など、建設業ならではの勘定科目やルールを踏まえて作成する必要があります。
本記事では、建設業者が損益計算書を作成する際に見落としがちなポイントや、実務で注意すべき点をわかりやすく解説します。
💡この記事のポイント ●建設業の損益計算書は「完成工事高」「完成工事原価」「未成工事支出金」など特有の科目がある。 ●税務決算と異なり、建設業会計基準に沿って作成する必要がある。 ●経審や決算変更届に直結するため、正しい区分・振替が必須。 ●人件費や経費の振分けを誤ると点数や申請で不利になることも。 |
▼目次
2.損益計算書とは?
5.最後に

税務申告の財務諸表と建設業法上の財務諸表は別物
建設業法上の財務諸表は、発注者や行政庁に対して会社の経営状態を示すことを目的としています。
よく税務申告用の財務諸表(決算書)と同じものと誤解されますが、実際には目的も形式も異なる「別物」です。
建設業法に基づく財務諸表は、以下の書類で構成されます。
【法人】 ●貸借対照表(様式第15号) ●損益計算書・完成工事原価報告書(様式第16号) ●兼業事業売上原価報告書(様式第25の12) ●株主資本等変動計算書(様式第17号) ●注記表(様式第17号の2) 【個人】 ●貸借対照表(様式第18号) ●損益計算書(様式第19号) |
“建設業法 第六条(許可申請書の添付書類) 六 前各号に掲げる書面以外の書類で国土交通省令で定めるもの” 〈建設業法より抜粋〉 |
“建設業施行規則 第四条(法第六条第一項第六号の書類) 八 株式会社(会社法の施工に伴う関係法律の整備等に関する法律第三条第二項に規定する特例有限会社を除く。以下同じ。)以外の法人又は小会社(資本金の額が一億円以下であり、かつ、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上でない株式会社をいう。以下同じ。)である場合においては別記様式第十五号から第十七号の二までによる直前一年の各事業年度の貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び注記表、株式会社(小会社を除く。)である場合においてはこれらの書類及び別記様式第十七号の三による附属明細表 九 個人である場合においては、別記様式第十八号及び第十九号による直前一年の各事業年度の貸借対照表及び損益計算書” 〈建設業施行規則より抜粋〉 |
これらの財務諸表の提出が必要となる場面は、以下の3つです。
1.建設説業許可の新規申請・許可換え申請
2.毎事業年度終了後の決算変更届
3.経営事項審査における経営状況分析
また、建設業特有の勘定科目があることも特徴です。
損益計算書では「完成工事高」「完成工事原価」「完成工事総利益」が、貸借対照表では「完成工事未収入金」「未成工事受入金」「未成工事支出金」「工事未払金」などが挙げられます。
損益計算書とは?
損益計算書は、会社の一定期間における収益・費用・利益をまとめ、経営成績を把握するための重要な財務諸表です。
特に建設業は、工事ごとに売上・原価・粗利を管理する必要があるため、損益計算書の正しい理解が欠かせません。
売上の計上方法には2つの考え方があります。1つは「工事完成基準」で、工事が完成した時点でまとめて売上を計上する方法。もう1つは「収益認識基準(進行基準)」で、工事の進捗に応じて段階的に売上を計上します。
この点を正しく理解しておかないと、正確な売上・原価・粗利管理ができません。
また、他の業種同様に損益計算書には「売上総利益」「営業利益」など5つの利益が示され、最終的な純利益は貸借対照表の純資産に反映されます。

さらに損益計算書は、貸借対照表だけでなく、工事経歴書や完成工事原価報告書、直前3年の各事業年度における工事施工金額などとも連動しています。
そのため、財務諸表を作成する際は、まず最初に損益計算書を整えることが重要です。
建設業の損益計算書は人件費の振り分けが最重要
建設業の損益計算書で最も注意が必要なのが、「人件費の振り分け」です。
現場に従事する人の給与と、現場に従事しない人の給与とでは、計上すべき科目が異なるからです。
・現場作業員の給与→労務費[完成工事原価]
・施工管理、現場代理人等の給与→経費(うち人件費)[完成工事原価]
・事務担当、営業担当の給与→従業員給料手当[販売費及び一般管理費]

この区分を誤ると、完成工事総利益率(粗利率)や営業利益率が大きく歪んだり、建設業法違反を疑われてしまったりする可能性があります。
例えば、本来は販管費に入れるべき事務担当の給与を工事原価に含めてしまうと、原価率が上がることになりますし、施工管理者の給与をすべて販管費に入れてしまうと、主任技術者等を現場に配置していないことになってしまいます。
人件費は経費の中でも占める割合が大きいため、わずかな区分の違いが損益計算書全体の数字を左右します。
損益計算書を作成する際は、「誰の給与なのか」「どの業務に従事しているのか」を明確に区分することが極めて重要になります。
損益計算書作成で人件費以外に気をつけたい実務ポイント
建設業の損益計算書を作成する際に人件費の振り分けが最も重要ですが、実務上はそれ以外にも注意すべき点があります。
税理士が作成した税務申告用の決算書をベースにするのですが、すべての決算書が統一された基準で作成されているわけではありません。
決算書によって次のような違いがよく見られます。
・税込・税抜の処理の違い…経審を受ける場合は、税抜での処理が求められます。
・原価報告書の有無…税務決算書では作成されないこともありますが、建設業では必須です。
・兼業売上と工事売上を分けていない…小売や不動産業などの兼業もまとめて「売上高」としているケースがあります。
こうした違いを調整せずに提出すると、受理されなかったり、不適切な申告と見なされるおそれがあります。
また、経審を受ける場合は、損益計算書の数値が「経営状況分析」の点数計算に使用されます。
●純支払利息比率(X1) 「支払利息-受取利息配当金/売上高×100」 ●売上高経常利益率(X4) 「経常利益/売上高×100」 |
どの勘定科目がどの指標に関係するかを把握しておけば、決算段階から経審を意識した経理処理が可能になります。
経審の経営状況分析については別記事で詳しく解説しています。
✓あわせてチェック 経営状況分析が経審評価を決める!仕組みや点数改善ポイントを徹底解説! |
最後に
建設業の損益計算書は、人件費の振り分けをはじめ、税務決算との違いや経審の指標など、注意すべき点がたくさんあります。
この記事で紹介したポイントを押さえることで、許可申請や決算変更届もスムーズに進めやすくなります。
ただし、実務では特殊なケースも多く、処理に迷うことも少なくありません。
時間をかけられない、正しくできるか不安という人は、建設業専門の行政書士に相談する方が良いでしょう。
![]() | この記事の執筆者 逸見 龍二(へんみ りゅうじ) アールエム行政書士事務所の代表・行政書士。事業会社で店舗開発に従事。ディベロッパーや建設業者との契約交渉・工事発注に数多く携わる。その後、建設業専門の行政書士事務所を開設。 知事許可・大臣許可ともに特殊案件含め実績多数。経営事項審査も年商数千万円の企業から40億円規模の企業まで幅広く対応。入札参加資格審査申請は全国自治体で申請実績あり。事務所HP |
当事務所では、大阪府知事の建設業許可を中心に申請代理、その他経営事項審査や入札参加資格申請までサポート全般を承っております。建設キャリアアップシステムについても代行申請を全国対応で承っております。
ぜひお気軽にご相談ください。ご相談はお問合せフォームからお願いいたします。


