建設業許可を取りたくても取れない1番の理由は、「経営業務の管理責任者(経管)」の要件を満たせないことだと思います。
これを聞くと、よほど難しい資格が必要なんだろうと思われることがありますが、資格は特に必要ありません。
建設業許可制度は「建設工事の適正な施工を確保」、「発注者保護」等を目的としているので、許可を受けるためには経営能力が欠かせません。
「経営業務の管理責任者(経管)」の要件を満たしていれば、経営能力があるものとして認められます。
経営能力は資格では測ることができないので、一定以上の建設業の経営経験を持っているかどうかで判断されます。
本記事では「経営業務の管理責任者(経管)」について、具体的にどのような経験が必要なのか、どのような資料で証明しなければならないのかを詳しく解説しています。
ぜひご参考にしていただければと思います。
▼目次
(1)役員等での経営経験
(2)執行役員等での経営経験
6.最後に
許可要件の中で経営業務の管理責任者(経管)は最も重要
建設業許可の要件の中で、人的要件の1つである「経営業務の管理責任者(経管)」は最も重要な要件と言っても過言ではありません。
契約の締結等、営業取引上対外的に責任を持つ、まさに経営の要です。
建設業許可を取った後、なんらかの理由で「経営業務の管理責任者(経管)」が欠けた場合、その時点で許可要件を満たさなくなってしまいます。代わりがいなければ許可を返納(廃業)せざるを得ません。
後任と交代する場合は、交代の日から14日以内に変更届を出さなければなりません。
1日でも不在となることが許されない存在です。
【参考】建設業許可要件
●経営能力があること
「経営業務の管理を適正に行う能力」の裏付けとして、経営業務の管理責任者(経管)を配置していることと事業所として適切に社会保険に加入していることが求められます。
●技術力があること
営業所ごとに許可を受けようとする業種に対応する一定の資格又は実務経験を持つ専任の技術者を配置しなければなりません。
●財産的基礎・金銭的信用があること
請負契約を履行するに足りる財産的基礎又は金銭的信用が必要です。
●欠格要件に該当しないこと、誠実性があること
法人の役員等や個人事業主本人等が、欠格要件に該当していると絶対に許可を取得することはできません。
申請書に虚偽記載があったり、重要なことを記載しなかったり、禁固以上の刑を受けて5年経過していない等、定められた欠格要件に1つでも該当してはなりません。
請負契約に関して不正または不誠実な行為をするおそれがある場合も許可されません。
●営業所を有していること
建設業の営業を行う事務所を主たる営業所として設置しなければなりません。
常時使用する権限や固定電話、事務機器等設備が必要となります。
経営業務の管理責任者(経管)に求められるのは建設業の経営経験
経営経験とは法人の役員や個人事業主の職務である経営管理の経験のことをいいます。
一般従業員が経営経験を持っていても「経営業務の管理責任者(経管)」になることはできません。
中心人物である常勤役員等に経営経験が必要です。
常勤役員等にはどの役職までが含まれるのか、経営経験はどのぐらい必要なのかを押さえておきましょう。
◎経営業務の管理責任者(経管)になれるのは常勤役員等
常勤役員等に含まれるのは以下の通りです。
✅法人の役員等(取締役、業務を執行する社員、執行役、執行役員等)、個人事業主本人又は支配人
法人の代表取締役または個人事業主本人を「経営業務の管理責任者(経管)」として申請することがほとんどで、執行役員等を「経営業務の管理責任者(経管)」として申請することはかなりレアケースです。
◎経営経験は原則5年以上必要
必要な経営経験は5年以上で、以下のパターンがあります。
✅建設業での役員、令3条使用人(支店長や営業所長)、個人事業主、支配人等として5年以上の経営経験
✅建設業での執行役員等として5年以上の経営経験(経営業務執行の権限を移譲されていたことが前提)
✅建設業での部長、個人事業主の専従者等、経営業務の管理責任者に準ずる地位として6年以上の経営業務補佐経験
役員経験3年と執行役員経験2年で合算5年、役員経験3年と準ずる地位経験3年で合算6年というふうに経験を合算することも可能です。それぞれ別会社のものでも問題ありません。
◎経営経験が5年に満たない場合
2020年10月の改正で、経営経験が5年に満たない場合でも、「建設業での経営経験5年未満の常勤役員等」+「常勤役員を直接補佐する者」という体制をとることで「経営業務の管理責任者(経管)」として認められることになりました。
具体的には以下のようになります。
建設業での経営経験5年未満の常勤役員等
【パターン①】
「建設業での役員等で2年以上」を含めて「建設業での役員等又は役員等に次ぐ地位で5年以上」の経験を有する者
【パターン②】
「建設業での役員等で2年以上」を含めて「別の業種での役員等で5年以上」の経験を有する者
常勤役員を直接補佐する者
許可を受けようとする会社で5年以上の財務管理の経験を有する者、5年以上の労務管理の経験を有する者、5年以上の運営業務の経験を有する者
※1人ですべて担当することも、3人で分担することも可能です。
この申請パターンで許可を取得することはかなり難しく、現時点では前例もほとんどありません。
申請会社で財務管理、労務管理、運営業務を5年以上経験している人はなかなかいません。
新設会社はもちろん、中小規模の会社で該当するケースはほぼないと考えても良いでしょう。
最大のポイントは経営経験を客観的な資料で証明できるかどうか
常勤役員等に経営経験があったとしても、それを客観的に証明することができなければ意味がありません。
過去に務めていた会社から書類を借りなければならないことも多いので、様々な事情で準備できずに許可取得を断念するケースも多く見られます。
必要な各資料の重なる期間が5年以上(※経営業務を補佐した経験は6年以上)あれば、証明資料として成立します。
◎役員等での経営経験
役員等の経営経験は以下の資料を同期間5年分以上揃えて証明します。
【法人役員の経験の場合】
・確定申告書の別表一、決算報告書
営業の実態を確認されます。「役員給与等の内訳」で常勤であったかどうかも確認されます。
・工事の請負契約書、注文書・請書、請求書・入金履歴
営業の実績を確認されます。工事内容、工事期間、請求金額が確認できる請負契約書等が必要です。
工事と工事の間が12ヵ月以上空かないように年数分揃えなければなりません。
・商業登記簿謄本
役員として登記されていた年数が確認されます。
【個人事業主の経験の場合】
・確定申告書の第一表
営業の実態を確認されます。
・工事の請負契約書、注文書・請書、請求書・入金履歴
営業の実績を確認されます。工事内容、工事期間、請求金額が確認できる請負契約書等が必要です。
工事と工事の間が12ヵ月以上空かないように年数分揃えなければなりません。
▼建設業許可業者での経験の場合は、営業実態を確認するための「確定申告書」、営業実績を確認するための「工事契約書等」を省略することができます。
以下の書類があれば経験を証明することができます。
・許可通知書(経験年数分)
・直近の決算変更届副本の表紙(受付印のあるもの)
・商業登記簿謄本
◎執行役員等での経営経験
執行役員等の経営経験は以下の資料を同期間5年分以上揃えて証明します。
・法人の組織図
職制上、取締役等に次ぐ地位にあるかどうかを確認されます。
・業務分掌規程
担当事業部門が建設業に関する事業部門であったかどうかを確認されます。
・定款、執行役員規程、取締役会の議事録、人事発令書等
取締役会の決議に基づき、具体的に権限が委譲されていたかどうかを確認されます。
・確定申告書の別表一、決算報告書
・工事の契約書、注文書・請書、請求書・入金履歴
▼建設業許可業者での経験の場合は、営業実績を確認するための「確定申告書」、営業実績を確認するための「工事契約書等」を省略することができます。
以下の書類があれば経験を証明することができます。
・許可通知書(経験年数分)
・直近の決算変更届副本の表紙(受付印のあるもの)
・法人の組織図
・業務分掌規程
・定款、執行役員規程、取締役会の議事録、人事発令書等
◎部長等、役員等に準ずる地位で経営業務を補佐した経験
部長等、役員等に準ずる地位での経験は以下の資料を同期間6年分以上揃えて証明します。
・法人の組織図
職制上、取締役等に次ぐ地位にあるかどうかを確認されます。
・年金被保険者記録照会回答票
在職期間を確認されます。
・確定申告書の別表一、決算報告書
・工事の契約書、注文書・請書、請求書・入金履歴
▼建設業許可業者での経験の場合は、経験期間を確認するための「確定申告書」、「工事契約書等」を省略することができます。
以下の書類があれば経験を証明することができます。
・許可通知書(経験年数分)
・直近の決算変更届副本の表紙(受付印のあるもの)
・法人の組織図
・年金被保険者記録照会回答票
経営経験だけでなく現在常勤していることも求められる
「経営業務の管理責任者(経管)」は、主たる営業所で常勤していることが求められます。
常勤とは、一般的にフルタイムで常駐して業務を行っている状態をいいます。
具体的には、以下のような基準があります。
・居所から営業所までの通勤距離が常識的な範囲であること
・他で専任を求められる立場にないこと(例:他社で経管、専技、宅建専任取引士など)
・適切な報酬額であること(月額10万円未満は常勤しているとは認められない)
非常勤の取締役等は、経営業務の管理責任者になることができません。
2箇所以上の会社で取締役をしているケースはよくありますが、社会保険も適用されず、非常勤の扱いになっている会社では経営業務の管理責任者になることができません。
許可を取得した後も、更新や業種追加等の申請の度に「経営業務の管理責任者(経管)」の常勤性を証明しなければなりません。
常勤性を欠いている状態は、許可取り消し事由となるので、定期的に確認されるといったイメージです。
常勤性については、別記事「建設業許可の常勤性とは|定義や確認書類を徹底解説!【経管・専技の必須要件】」でさらに詳しく解説しています。
ご参考にしていただければと思います。
経営業務の管理責任者(経管)についてよくある質問
経営業務の管理責任者(経管)について頻繁にいただく質問をピックアップしました。
◎出向で迎え入れた役員を経営業務の管理責任者(経管)にすることはできますか?
役員が出向者であっても常勤性が認められれば、経営業務の管理責任者(経管)になれます。
常勤性の確認書類とともに出向協定書・出向辞令が必要になります。
◎許可業者での役員経験があるのですが、許可通知書が見当たりません。どうにかなりますでしょうか?
許可業者が現在も有効に許可を持っている場合、許可通知書がなくても商業登記簿謄本で役員就任期間の確認がとれれば、認めてもらえる可能性があります。直近の決算変更届は提出しておかなければなりません。
直接、大阪府に事前相談するようにしましょう。
最後に
他の許可要件(欠格要件を除く)を満たしていなくても、まだ何かと方法が考えられますが、取締役や個人事業主本人に経営経験がなければ、どうしようもありません。
経営経験が5年に到達するのを待つか、経営経験がある人を常勤の取締役等として迎え入れる以外ありません。
経営経験はあるものの、確認資料が揃わないというケースであれば、まだ解決できる可能性があります。
お困りの方は事前に専門家に相談することもご検討ください。
この記事の執筆者 金本 龍二(かねもと りゅうじ)|行政書士 アールエム行政書士事務所の代表・行政書士。事業会社で店舗開発に従事。 ディベロッパーや建設業者との契約交渉・工事発注に数多く携わる。その後、行政書士事務所を開設。 建設業専門の事務所として 近畿圏内の知事許可、大臣許可、経営事項審査、 建設キャリアアップシステムをサポート。 |
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