建設業許可には一般建設業許可と特定建設業許可があります。
建設業許可をはじめて取得する際に、いきなり特定建設業許可を取得するケースはあまり見られません。
2023年3月時点で建設業許可を取得している業者は474,948業者となっていますが、その内、特定建設業許可を取得している業者はわずか48,365業者しかありません。ほんの1割程度です。
許可要件が厳しく、クリアできない建設業者が多いのはもちろん、一般建設業許可でも特に支障がない建設業者が多いのが実情です。
本記事では、特定建設業許可の許可要件や注意点、一般建設業許可との違いを詳しく解説しています。
ぜひご参考にしていただければと思います。
▼目次
5.最後に
一般建設業許可・特定建設業許可は許可の区分の1つ
建設業許可には許可の区分と種類(業種)があります。区分と種類(業種)によって申請先や許可要件等が異なります。一般建設業許可・特定建設業許可は建設業許可の区分の1つです。
●一般建設業許可・特定建設業許可
業種ごとにいずれかの許可を受けることができます。
1つの業種に対して、一般と特定両方の許可を受けることはできません。
複数の営業所を構えている建設業者が、A営業所では建築工事業(一般)、B営業所では建築工事業(特定)というような許可の受け方はできないということです。一般と特定それぞれで許可要件が異なります。
●大臣許可・知事許可
営業所をどこに置くかで変わります。同じ都道府県内であれば複数の営業所を置いても知事許可、他都道府県に跨って複数営業所を置く場合は大臣許可になります。
大臣許可の建設業者は全国でわずか0.1%しかいません(2022年3月時点)。
それぞれ申請先と申請手数料が異なります。
●業種
全29業種あり、業種ごとに許可を受けなければなりません。それぞれ許可要件(専任技術者)が異なります。
大規模な工事は特定建設業許可がなければ請け負えない?
大規模な工事を請け負うために特定建設業許可を取りたいという話をよくお聞きします。
本当に特定建設業許可がなければ、大規模な工事を請け負うことができないのでしょうか?
■ 判断基準は「工事の規模」ではなく「請け負う立場」と「下請への発注金額」
■ 下請けへの発注金額にはどこまでが含まれる?
■ 特定・一般どちらも請負金額自体には制限がない
特定建設業の概念を理解し、本当に許可が必要かどうかを正しく判断しましょう。
◎判断基準は「工事の規模」ではなく「請け負う立場」と「下請への発注金額」
特定建設業許可がなければ大規模な工事を請け負うことができないという認識は、厳密には正しくありません。
元請として請け負う工事で、下請への発注金額が4,500万円(建築一式工事は7,000万円)以上となる場合に特定建設業許可が必要になります。
単純に大規模な工事だからというわけではなく、請け負う立場と下請けへの発注金額によって許可が必要かどうかが決まるのです。
あくまで元請の立場での下請発注金額の規定なので、1次請けの立場での2次請けへの発注金額には制限がなく、特定建設業許可を求められることはありません。
あまりないケースですが、元請として請け負うものの、自社施工が大半で下請発注がほぼないような場合も、特定建設業許可は不要ということになります。
◎下請けへの発注金額にはどこまでが含まれる?
下請発注金額が制限を超えているかどうかの判断には消費税が含まれます。
元請業者が下請業者に資材を提供する場合がありますが、この代金は発注金額には含まれません。
また、複数の下請業者に発注する場合は、その合計金額で判断されます。
◎特定・一般どちらも請負金額自体には制限がない
一般建設業許可と特定建設業許可で請け負える金額自体に差があると思われていることがよくあります。
これは間違いで、請負金額自体には制限はありません。元請であっても下請であっても同様です。
【一般建設業許可で請け負えるパターン】
・元請として2億円の工事を請け負い、下請への発注金額が2,000万円+1,000万円で4,500万円未満なので、一般建設業許可で足ります。
【特定建設業許可が必要なパターン①】
・元請として2億円の工事を請け負い、下請への発注金額が3,000万円+1,500万円で4,500万円以上なので、特定建設業許可が必要になります。
【特定建設業許可が必要なパターン②】
・元請として2億円の工事を請け負い、下請への発注金額が8,000万円で4,500万円以上なので、特定建設業許可が必要になります。
・1次下請業者は8,000万円の工事を請け負い、2次下請業者への発注金額が4,500万円以上ですが、再下請発注なので特定建設業許可は必要ありません。請負金額自体にも制限はありません。
特定建設業許可は一般建設業許可に比べて許可要件が厳しい
一般建設業許可とは2つの許可要件が異なります。
■ 専任技術者に求められる資格・経験のレベルが上がる
■ 多くの資本金・自己資本が求められる
特定建設業許可は、上記で説明したように下請への発注金額が大きくなります。
発注者保護に加えて、技術的な面、金銭的な面での下請保護も考慮して、一般建設業許可に比べて要件が厳しくなります。
◎専任技術者に求められる資格・経験のレベルが上がる
特定建設業の専任技術者になるために必要な資格は、基本的に1級レベルとなっています。
業種ごとに対応する資格については、以下のリンク記事で詳しく解説しているので、ご確認ください。
一般建設業の専任技術者要件を満たす人が指導監督的実務経験を2年以上持っていれば、特定建設業の専任技術者になることもできます。
ただし、指定建設業(土木工事業、建築工事業、電気工事業、管工事業、鋼構造物工事業、舗装工事業、造園工事業)の場合は認められません。
指導監督的実務経験とは、元請として請け負った4,500万円以上の工事において現場監督のような立場で携わった実務経験を指します。
指導監督的実務経験については、以下のリンク記事の中で詳しく解説しています。ぜひご参考にしてください。
◎多くの資本金・自己資本が求められる
一般建設業許可の場合、財産的基礎(自己資本500万円以上)または金銭的信用(預金残高500万円以上)で財産要件を満たすことができます。
しかし。特定建設業許可の場合は、直前の決算において以下のすべてをクリアしていなければなりません。
5年ごとの更新の際にもチェックされます。
✅欠損の額が資本金の額の20%を超えていないこと。
✅流動比率が75%以上であること。
✅資本金の額が2,000万円以上であること。
✅自己資本の額が4,000万円以上であること。
※資本金に関しては、直前の決算で2,000万円に満たなくても、許可申請の前に2,000万円以上になるように増資をして資本金の変更届を提出すれば、認めてもらうことができます。
許可要件をクリアできていても思わぬ落とし穴に注意
特定建設業許可の要件をクリアできたとしても申請時に注意しなければならないことがあります。
■ 申請の前に専任技術者の変更届が必要なことがある
■ 現場配置できる技術者がいない
特定建設業許可を取るためには、誰が営業所の専任技術者になるのか、技術者が何人いるのかは非常に重要です。
◎申請の前に専任技術者の変更届が必要なことがある
一般建設業許可から特定建設業許可に切り替える申請を般特新規申請といいます。
もとの専任技術者が1級資格を取得して、特定建設業の専任技術者になる場合は特に問題ありませんが、別の人間が特定建設業の専任技術者になる場合は般特新規申請をする前に専任技術者の変更届を提出しなければなりません。
例えば、内装仕上工事業(一般)の専任技術者であるAさんが、1級建築施工管理技士を取得して内装仕上工事業(特定)の専任技術者になる場合は般特新規申請のみで問題ありません。
しかし、1級建築施工管理技士の資格を持っているBさんが内装仕上工事業(特定)の専任技術者になる場合は、般特新規申請の前に、内装仕上工事業(一般)の専任技術者をAさんからBさんに変更しておかなければなりません。
◎現場配置できる技術者がいない
1級資格者が1人しかいない場合、特定建設業の営業所専任技術者要件を満たし許可を取得することができたとしても、現場配置技術者がいないため、特定建設業許可を要する工事を請け負うことができません。
営業所の専任技術者は例外的に配置技術者(監理技術者・主任技術者)を兼任することができますが、特定建設業許可が必要な工事においては監理技術者(1級資格者)の専任が求められるので、兼任することはできません。
結局、営業所の専任技術者と別に、1級相当資格者が必要になるということです。
配置技術者については、以下のリンク記事の中で詳しく解説しています。ぜひご参考にしてください。
最後に
以上のことを踏まえて、一般建設業許可で十分、将来的に特定建設業許可をしたい等、置かれている状況によって考えは様々かと思います。
大規模工事になってくると、どうしても下請に発注しなければならないことが増えてくるはずです。
許可要件をクリアするのは難しいですが、事業規模を拡大していく想定であれば、特定建設業許可は必要になってくるでしょう。
業務多忙で許可申請に時間を費やせない、許可要件をクリアできているのかどうか自信がない等、お悩みの方はぜひ専門家である行政書士にご相談いただければと思います。
この記事は行政書士が執筆・監修しています。 アールエム行政書士事務所/代表/金本 龍二(かねもと りゅうじ) 本記事は建設業に特化した事務所の行政書士が執筆・監修しています。 行政書士の詳しいプロフィールはこちら |
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